ドラフトにおける光と影

2010年ドラフト会議。

今年は例年以上に“豊作”で、特に斎藤佑樹、大石達也(ともに早大)、澤村拓一(中大)の3人のピッチャーに人気が集中すると言われた今年のドラフト。

しかし、ふたを開けてみれば斎藤には4球団、大石には6球団が集中しくじ引きになったものの、注目の澤村にいたっては(なぜか)巨人が“一本釣り”。

巨人は今までのドラフトでさまざまな“裏技”を使って意中の選手を獲得している。

江川しかり、桑田しかり、元木しかり…

そんな経緯があるから、今回もキナ臭い雰囲気が拭えない。

そもそもこの代は“ハンカチ世代”と呼ばれるほど、斎藤佑樹と田中将大(楽天)を中心に回っていたはず。澤村なんてごく最近まで聞いたこともない。

澤村拓一とはどんな選手なのか。

澤村は斎藤と同じ1988年の4月3日生まれ(ん?4月3日と言えば上原と由伸と同じ誕生日だ)。
出身は栃木県で、出身高校は野球の“名門”佐野日大高校。甲子園の出場はないが、高校時代から140km/h台の直球を投げ、ドラフト候補にもなったようだ。その後セレクションで中央大学(当時2部)に進み、1部昇格の原動力になり注目を浴び始めたようだ。その名を世間に広めたのは今年の春。大学生歴代最速の157km/hをマークしてからだ。その後怪我で世界大学野球選手権を辞退するも、復帰戦となった亜細亜大戦、続く国士舘大戦を連続完封し復活をアピール。ドラフトで巨人に“単独”指名される。

澤村は高校時代にも怪我をしており、今回の故障と合わせて指名を回避した球団もあったようだが、実際はどうだろうか…。

巨人には中央大学出身の選手が結構いる。阿部、亀井、アンダースローの会田などがそれにあたる。会田にいたっては高校も同じ佐野日大だ。中央大の高橋監督は完全試合も達成したことがある元プロ野球選手で、巨人にも在籍。80年代初頭にはコーチも務めている。

要は、巨人とのつながりが“濃い”のだ。

報道によれば、ヤンキースから身分照会があったとされている。
ヤンキースが興味を示しているのであれば、(意中の球団以外なら)日本野球ではなくメジャーに挑戦する方法も可能性としてある訳だ。

澤村の意中の球団は“巨人”と公然の事実として知られていた。
ということは「巨人以外ならヤンキース」という可能性がある。

仮に他球団が交渉権を獲得した場合、交渉が決裂する可能性があるわけだ。
“豊作”と言われる今年、ドラフト1位の選手が入団してくれないとなれば大打撃。ライバル球団と差が付く可能性がある。

ドラフト1位の選手には“是が非でも”入団してもらいたい。
最近では、日ハムとロッテが長野(現巨人)を強行指名したことがあったが、今年に限っては難しい。即戦力のドラ1候補がいすぎるのだ。

となれば、入団するかどうかわからない澤村には行きにくい。

澤村サイドは「ヤンキースからの身分照会」をカードとして使ったわけだ。

しかしヤンキースは伊良部、井川(大金を叩いて取ったが…)と失敗しているため“日本人投手嫌い”なはず。莫大な移籍金が発生するポスティングと契約金だけで獲得できる今回のケースは違うとはいえ、不信感があることに代わりはない。

とすればなぜ?

ヤンキースは巨人と業務提携を結んでいる。

巨人が澤村を“一本釣り”するために、裏で手を回したとしてもなんら不思議ではない。というよりもしっくりくる。そのほうが巨人らしい。

そこまでしてなぜ澤村だったのか?

もともと巨人は斎藤佑樹を追っていたはず。
早大の応武監督との確執はあったものの斎藤が本命だったはず。
ではなぜ乗り換えたのか?

それは巨人の“おごり”。

プロ選手にはふたつの資質が必要だ。

ひとつは当然のことながらプレーヤーとしての資質。
勝負の世界に身を置くなら実力がなければ生き残っていけない。プロ選手として通用する実力があることが大前提。これがないとまずは話にならない。

もうひとつ欠かせないのが“スター”としての資質だ。
我々がその選手と出会った時のインパクト、ドラマ性がスターとしての資質を開花させ、注目され続けることで、アイデンティティーが確率された“唯一無二”のスターになる。

野球で言えばそのステージは“甲子園”だ。
漫画のドカベン・明訓高校の実写版かと思えたPL学園の“KKコンビ”、決勝までの勝ち上がりもドラマ性が高く、決勝戦ではノーヒットノーランをやってのけた横浜高校の“松坂大輔”、そして決勝再試合で最後のバッター“ライバル”田中将大をストレートで三振に取った早稲田実業のハンカチ王子“斎藤佑樹”。高校時代から注目を浴び続け、勝負の世界に身を置く彼らは間違いなく“唯一無二”のスターだ。

放映権やスポンサー料、入場料で給料をまかなうプロスポーツである限り、スター性も実力と同じくらい必要な要素であるはず。しかし巨人は、松坂も田中も、そして斎藤も指名しなかった。

「巨人にスター選手はいらない。巨人にいればスターになれる」

そんな考えが見え隠れする。

巨人には“ON”を中心にスター選手がいたから人気が出たわけで、もともと巨人が人気があったわけではない。巨人人気が確固たるモノになったのは、六大学の“スター”長嶋茂雄が入団してから。大衆は、唯一放映している巨人戦を観て、画面の向こうにいる長嶋を応援したのだ。巨人の人気が不動になった理由は次から次へとスターを獲得したからに他ならない。巨人以外は全球団“悪者”。スター集団の巨人が、巨人を倒そうとする悪者を次から次へと返り討ちにする“勧善懲悪”の構図が大衆を魅了したのだ。

巨人が敷く“スター不在”システムの結果、勧善懲悪の構図が崩れ、プロ野球が面白くなくなった。

プロ野球“凋落”の原因はスターを獲得しにいかない巨人にある。

ここで言うスターというのは“スーパースター”の意で、ただのスターは含まない。長嶋監督時代のようにスターをかき集めることを言っているのではない。

例えば、今の巨人の中でスターと言えば坂本隼人になるが、スーパースターではない。本来の立ち位置は“恒星”の光で輝きを放つ“惑星”、いぶし銀のポジションだ。

巨人は強いライトで惑星を照らし輝かせようとするが無理がある。惑星は自ら光を発することはできない。同じチームの選手はもとより、相手チームの選手、観客までもを強い光で輝かせる“恒星”が巨人に必要だ。他球団ではダメだ。他球団(阪神は別として)は球団自体が光を持っていない。強烈な光を放つ恒星が入ることで必要以上にコントラストが強くなり、消化しきれず爆発の危険すら伴う。

実力主義は大いに結構。

しかしプロスポーツであることを忘れることは許されない。

すでに危険水域に達していることを当事者たちはわかっているのだろうか…。

ドラフトにおける光と影
眩しすぎるゼ!佑ちゃん!!日ハムはこの“恒星”を扱いきれるのだろうか…。



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