スペイン代表のキコは泣いていた。
途中出場し、2点を決めたにも関わらず、大粒の涙を流していた。
1998年フランス大会のグループDに振り分けられたスペインは、初戦のナイジェリア戦を打ち合いの末、2対3で落とした。
必勝を期したパラグアイ戦ではまさかのスコアレスドロー。
2試合が終わった時点で、ナイジェリアが連勝で勝ち点6。
続いて2引き分けのパラグアイが勝ち点2で2位。
スペインはブルガリアと並んで勝ち点1に沈んでいた。
スペインが決勝トーナメントに進むには、まずブルガリアに勝つこと。
その上で、パラグアイが“負けること”が条件だった。
パラグアイは勝てば決勝トーナメント進出。
引き分けの場合、スペインが勝利するとグループリーグ敗退となる。
同時刻に始まった試合は、スペインがブルガリアを圧倒。
後半10分の時点で3対0でリードしていた。
同じ時刻、パラグアイはナイジェリアに対し1対1の同点。
この時点ではスペインが決勝トーナメント進出。
後半15分。
パラグアイが勝ち越し点を上げる。
この時点ではパラグアイが決勝トーナメント進出。
ナイジェリアの同点弾を信じ、怒涛の攻撃を仕掛けるスペインは、
1点を奪われたものの、後半35分にモリエンテスがゴールを上げ、試合を決定づける。
その直後、無情にもパラグアイにゴールが生まれる。
パラグアイ3対ナイジェリア1。
ナイジェリアはこの勝敗に関係なく1位通過が決まっている。
無理に反撃する必要などなかった。
それでもスペインはナイジェリアが追いつくことを信じ、ブルガリアゴールに迫る。
試合終了間際、途中出場のキコが得点を上げる。
さらにロスタイムにもゴールを決めたキコだが、その目には涙が流れていた。
一足早くパラグアイ対ナイジェリアの試合が終わり、パラグアイが3対1で勝利。
スペインのグループリーグ敗退が確定してからのゴールだったのだ。
ワールドカップが始まると、いつもいくつかのシーンが浮かんでくる。
イタリア大会で退場したフェラー、アメリカ大会でPKを外したバッジョの背中、そしてフランス大会のキコの涙のゴールなど、スーパーゴールよりも、選手が流した涙の方が強く残っている。
我らが日本代表も、この時のスペインと状況が似ている。
自分たちだけではどうすることもできない、まさに他力本願だ。
もちろんわずかだが、決勝トーナメント進出の可能性はある。
だから諦めずに前へ。
諦めずに戦い抜く姿勢に我々は感動を覚え、記憶に刻む。
10年後、20年後、語り継がれるような試合を!
そんな試合を強く望む。