「3対0」
コンフェデレーションズカップの開幕戦、日本対ブラジルの結果だ。
「世界との差」と大きく報じられたが、果たしてそうだろうか。
ブラジルは昨年10月同様、俗に言う“堅守速攻”スタイル。
自陣でボールを奪うと、攻撃的なポジションの4人がピッチに広がり、一気に駆け上がる。
それをサポートするカタチで両サイドバックもポジションを大きく前へとあげる。
ボランチのひとりも“トップ下”付近までポジションをあげ、攻撃陣をサポートする。
最終ラインにふたり残るセンターバックはワイドに開き、その間にボランチのひとりが入り、“スリーバック”のようなカタチになる。
ボランチは、(日本のような)“横並び”ではなく“縦並び”。
ひとりが攻撃に参加しても、もうひとりは必ず残り、日本のバイタルエリアを消していた。
“個”というよりも“組織的”。
昨年の対戦時にも感じたことだが、今回、改めてそれを感じた。
一方の日本が志向するのは“ポゼッション”スタイル。
実はこのスタイル、アジアでは通用するものの、世界を相手にした時に通用した試しがない。
というのも、ポゼッションの核となるボランチが世界基準ではないからだ。
そもそも“ポゼッション”という概念は世界で通用するのだろうか。
スペースが多く存在した昔のサッカーであれば可能だろうが、スペースがほぼない現代のサッカーでポゼッションが可能なのだろうか。
そもそもバルセロナの選手が大半を占めるスペイン以外、成功した国はないのではないだろうか。
現在最強と言われるドイツも、どちらかというと“堅守速攻”だ。
選手の技術はもちろん、意思の疎通も大切な要素となるポゼッションサッカーは代表には向いていないのでは、と感じている。
ポゼッションを志向するのであれば、ボール支配率は最低でも50%は欲しい。
ボールを支配することで相手の穴を創りだし、そこを突くのがポゼッションサッカー。
ボール支配率が下がれば機能しないし、それはポゼッションといえない。
曖昧だが、この日の日本のボール支配率は30%台だったと思う。
守備組織の整備、サイドを使った速攻を磨くことこそ“世界基準化”ということだと思うのだが…。
それはさておき、試合を観て感じたのはコンディションの悪さ。
要するに“準備不足”を痛く感じた。
火曜日にカタールでワールドカップ予選を戦い、その後ブラジルに移動し、中3日でブラジルと戦ったわけで、2週間前から合宿を組んでいたブラジルとは大きくコンディションに差があった。
しかしながら、この日程になるのはとっくにわかっていたこと。
わかっていながら何の策も講じなかったスタッフ、とりわけ監督の責任は大きい。
本田や吉田、長谷部は予選に出場しなかったものの、香川や今野、そして遠藤は出場していた。
もちろん、「出さなきゃいい」という類の話ではない。
大切なのは「準備ができていたかどうか」ということだ。
歴代の日本代表監督でここを最も重視し、最新の注意を払い準備を行ったのがトルシエだ。
アフリカでの代表監督経験が豊富なこのフランス人は、ストイックに“準備”にこだわった。
例えば、試合中の給水。
のどが渇く前に飲むことを必須とし、水の飲み方、その際に水を体にかけること(もちろん場所も)を徹底した。
練習中もこれは適用されてた上、水は必ず“キンキン”に冷えたモノを用意させたらしい。
というのも、ワールドカップは夏に行われる。※今回は南半球
となれば暑さ対策は必須。
それを見越して普段からソレを徹底させたらしい。
冷たい水についてもこだわりがあった。
冷たい水は体温を下げるが、急激に摂取すれば腹痛を起こし、スタミナを消費する。
そのため、相手チームが日本の水を急激に摂取すればスタミナ切れを起こす可能性があったという。
移動中の選手の睡眠にも口を出したらしい。
時差ボケを一気に解消するために、現地には必ず夜に着くようスケジュールを組み、機内での睡眠を禁止。
現地に着いてから就寝させた。
これはほんの一例。
効果があったどうかも定かではない。
だが弱者は徹底的に準備をしなければジャイアントキリングは起こせない。
グアルディオラ時代のバルセロナは、試合前に必ずある映画のワンシーンを選手に観させてからピッチに向かったという。
この映画のワンシーンを観て涙する選手もいたという。
技術が売りのバルサでさえ、選手を高揚させるための手段、戦うための準備をしっかりと行っていたのだ。
選手たちがコンフェデ杯を「ワールドカップと同等の大会」、「勝ちに行く」と言ってくれた時は嬉しかったし、期待した。
だが、完全に空回り…。
選手たちだけがもがき、苦しみ、自信を失わせつつある。
残念ながら、日本の監督に“準備”という概念はない。
これについてはザッケローニだけの問題、昨日今日始まった問題ではない。
“名前”で監督になった“強国”出身のジーコも、“東欧のブラジル”ユーゴスラビアという“強者”を率いていたオシムも“準備”に関しては全くの素人。
手つかずだった。
ザッケローニは“強国”イタリアの、しかもクラブチームの監督。そんなことにまで気がまわるはずがない。
一方で“準備”をとても大切に考えている監督もいる。
韓国とオーストラリアで結果を残したヒディングだ。
ヒディングはスタッフの中に陸上のコーチを入れている。
試合当日にフィジカルコンディションをピークにもってくるのが狙いだが、この分野に関しては陸上のコーチの方が長けているらしい。
韓国代表時には、選手の超回復を実現するため“高麗人参”を活用。
要するに、選手がベストコンディションで試合に挑めるように、ありとあらゆる手を尽くした、というわけだ。
ドイツとロシアという軍事力が“強者”の国に挟まれたオランダ人ならではの発想かもしれない。
「弱者が強者に勝つためには周到な準備が不可欠」だと。
まだ大会は続く。
次戦のイタリア戦に負ければ“事実上”グループリーグ敗退…。
監督が全くあてにならない今、頼りになるのは選手、それもあの選手しかいない。
大会はまだ続くのだ。