第9話/オランダvs日本(第一章)

6月19日。
パトカーのサイレンで目が覚め時計を見ると朝の5時。
犯罪防止のためか、パトカーは一晩中サイレンを鳴らして街中を徘徊していたようだ。

窓の外を見ると、閑散とする通りに“完全に怪しい”男たち(もちろん黒人)がたむろしている。しばらく見ていると、路地裏から男が出てきて何やら話をし、数人の男を連れて路地裏へと消えた。道端にはしゃがんだまま動かない男や、バス停に座ったまま1点を見続けている男がいる。しばらくすると、さっき路地裏へ消えた男たちが戻ってきた。足元はふらふらだ。

(一体彼らは路地裏で何をしていたんだろう…)

シャワーを浴び部屋に戻ると、モリモリとひらっちが起きてきた。
「とりあえず飯食おう」
大食漢のモリモリに誘われ朝食に。

前回のドイツ大会の時に宿泊した格安ホテル「ホテルロシア」(ドイツなのになぜか“ロシア”…)の朝食はひどかった。
ビュッフェスタイルの朝食だったが、パッサパサのパンとパッサパサのチーズ、しなびた野菜、硬く味のないハムしかなかった。それを薄くぬるいコーヒーで流し込んだ。生きるために…

今回も“格安ホテル”で朝食は“ビュッフェ”。
悪夢がよぎる…

レストランに行くと、我々のチェックインを担当した“トムとジェリー”のおばちゃんが席まで案内してくれた。窓際の席は埋まっていたため、ほぼ中央のテーブルだったが、朝日は届くし、テーブル間も広いし、なんといっても窓からはインド洋が見える。リゾートで向かえる朝の心地良さを充分感ることができた。
食事のほうも、前回とは全く異なり、フワフワのパンやさまざまな種類のソーセージ、下味がしっかり付いたスクランブルエッグ、そしてなにより野菜が新鮮だった。

ゆっくり朝食をとった後、部屋に戻り観戦準備。
9時にはフクさんとナベちゃんが迎えに来る。

今回は“歌舞伎役者”スタイルで観戦だ!

前回のドイツ大会時は“ちょんまげ”と“忍者”に扮して観戦したのだが、それぞれに問題があった。ちょんまげはとにかく他の人とキャラかぶった。来る人来る人み~んな“ちょんまげ”だ。全く目立たない。忍者は目立つが、ズボンと服、頭巾が一体となっているため着るのに時間がかかり、さらにメチャクチャ暑い。

それを踏まえて今回は歌舞伎役者だ。
第9話/オランダvs日本(第一章)
「まさかの化粧失敗!!」考えてみれば“歌舞伎役者”の化粧ってわかんない…

「まあいいや!行こうぜ!」
人の顔を見てゲラゲラ笑うみんなに声を掛け、いざダーバンスタジアムへ!
ホテルからダーバンスタジアムへは約2.5㎞。ゆっくり歩いても30分位で着く。もちろん我々は歩いていく。
第9話/オランダvs日本(第一章)
ダーバンスタジアムは遥か先!でもテンション上がってるからグイグイ歩くゼ!

ほどなく歩くと
「シャシンイイデスカ?」
外人が声を掛けてきた。

(おお、目立ってる?)

「オッケー、オッケー!」
第9話/オランダvs日本(第一章)
外国人との交流がワールドカップの醍醐味!

「シャシンイイデスカ?」
また来た。

「オーケー」
第9話/オランダvs日本(第一章)
昨晩習得したギャグ「鳴らないブブゼラ」はここでも大爆笑!

「シャシンイイデスカ?」
またまた来た…

「…オーケー…」

次から次へと外国人がやってきて(もはや並んでた)ずっと続く撮影会…
有名人が写真や握手、サインを断る理由がわかった。キリがない。

「オレらスターすね!」
ひらっちが言う。
確かにそんな状態ではあるが、違う。

まず、歩いてスタジアムまで行こうとしている日本人がほとんどいない。みんな安全を考えて“送迎”をホテルにお願いしたようだ。中には歩いている日本人もいるが、みんな早足通り過ぎるため声を掛けにくい。我々が声を掛けても“逃げる”ように去っていく人が多かった。

だから、とっつきやすそうな我々に集中しているのだ。

我々の“ファン”を振り切るようにして進むと、朝っぱらから「ファンフェスタ」会場(ファンフェスタ会場は海岸沿いや公園などいたるところにあった)が賑やかい。

「うわ!オランダサポーターだよ」

朝9時30分。
オランダサポーターはすでにパーティをしていた。
ステージ上ではDJがガンガンに音楽を鳴らし、サポーターは奇声を上げながら踊っている。

「さすがオランダ人、楽しみ方がわかってるね」

ワールドカップに来るサポーターは毎回オランダ人が一番多いそうだ。

「あれ、あのスチュワーデスの格好している人、ヨハネスブルグで見たゾ!」

そこには、ヨハネスブルグでワカさん(わたくしですが…)が恋に落ちた“笑顔”が素敵なオランダ美人がいた。

「うわ~、一緒に写真撮りたいなあ~」

「行ってくればいいじゃん」
いいかげんなモリモリがけしかける。

本当に人を好きになった人ならわかると思うが、本当に好きな人を目の前にすると体が動かなくなる。

「だめだ…行けねえ…」

この機会を逃すと二度と会うことはない。
しかし、会えば“何か”が起こるかもしれない。例え0.000001%以下の確率でも、出会わなければ何も始まらない。しかも今はワールドカップ。お互いテンションは上がっている。何か起こる確率は通常の時より“グン”と上がっているはずだ。“リゾラバ理論”は充分理解している。

「やっぱダメだ…」

イベント会場を通りすぎようとしたその時“奇跡”が起こった。

「一緒に踊りましょうよ」

片想いだったそのオランダ美人その人が、このオレ(あっ、ワカさんね)に声を掛けてきたのだ!
第9話/オランダvs日本(第一章)
見よ、この笑顔!こんな笑顔はウチの嫁でも見たことがない!

彼女に肩を抱かれて、オレ(あっ、ワカさんです)は彼女の腰に手を回し、二人で輪の中心へ…

(流れる至福の時間…)

肩に当たる“柔らかい何か”…

(ああ、このまま時間が止まればいいのに…)

あれ!?ちょっと待った!何かがおかしい。

オレの身長は180㎝。女性と肩を組む場合は“必ず”コッチが肩に手を回し、女性がコッチの腰に手を回す。さらに通常“柔らかい何か”が当たるのは肘か腕。肩に当たることは、今まで1度もない。

なのに、今は肩に手を回され、“柔らかい何か”は肩に当たっている。

そう、身長が“ド”デカいのだ!

他のオランダ人を見てもやはりデカい。オランダ人同士でいると気付かないのだが、日本人と並ぶとその違いが鮮明になる。

女でこんなにデカいのだ。もちろん男はもっとデカい。

(こんなヤツらと戦って、日本は勝ち目があるのか?)

このデカさを目の当たりにすると、戦術や走力ではとても埋められないような溝があるような気がしてしまう…

この後行われるオランダ戦がより心配になった。

「ビール飲む?」

「えっ?ああ、サンキュー」

大会期間中、南アフリカではビールの販売は朝10時から。今は朝の9時30分を少し過ぎたところ。楽しみ方がわかっているオランダ人は自分たちでビールを用意していた。

(オランダ人は準備も万端なんだ…)

ますます勝てる気がしなくなってきた…

第9話/オランダvs日本(第一章)
みんなで“パシャリ”。後ろのスクリーンには大きく我々が映し出されていた。
第9話/オランダvs日本(第一章)
ナベちゃんのテンションも急上昇!(中央の扇子持ってるのがナベちゃん)
第9話/オランダvs日本(第一章)
メルヘンな1枚。

ビールをたらふくご馳走になりハグでお別れ。もちろん“リゾラバ”はなかった…

この時すでに10時30分。

30分で着くはずが未だスタジアムの影すら見えない…


つづく



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この記事へのコメント
まだまだスタジアムは遠いですぞ!(笑)

http://blogs.yahoo.co.jp/tsugayaorchid/1697546.htm
Posted by morikoto at 2010年08月06日 09:53
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