試合が始まっても、締りのない“ブブゼラ”の音がスタジアムのあちこちで「プー、プー」鳴っている。
耳栓がないと難聴になる、くらい言われていたが、全くそんな様子はない。ただ思い思いに「プー、プー」鳴らしているだけで、(例えばブーイングのような)主張もない。少し拍子抜けだった。
試合はというと、案の定、序盤からオランダがボールを回し、日本が受けに回る展開。
しかし、動きの少ないファンペルシーにいいボールが入らない。エースのスナイデルに対しては、阿部を中心に長谷部、遠藤がうまく連動し、なかなか自由にさせていない。
右ウイングのカイトは、対峙する長友のマークにあい、前を向いてボールをもられない。
スナイデルのフリーキックやカイトのオーバーヘッドなどがあったが、全く入れられる気がしない。
この日も日本のディフェンスは安定しているよに見える。
オランダも序盤での失点を避けたいのか、リスクを犯して攻め込むカタチはほとんどない。
(凡戦の気配が漂う…)
一方、
「後半まで、もたないんじゃないか?」
と思わずつぶやいていまうほど、動きが良かったのが、日本の右サイドの松井大輔。日本がボールを奪うといち早く動き出し、ボールを引き出し、勝負を仕掛ける。単調だが、オランダの左サイドバックのファンフロンクホルストを圧倒していた。たまらず、オランダの左ウイングのファンデルファーとがサポートで戻る。結果、オランダ、日本とも右肩上がりの陣形へとなっていた。
前半36分。
松井の突破を止めに言ったオランダDFにイエローカード。
この日の松井はホントに良く動いていた。
そのフリーキックを遠藤がゴール前の闘莉王へ。
闘莉王のヘディングは惜しくもゴールから外れる。
このあたりは日本の時間帯。
なんとか先取点が欲しい。
(が、この試合は紛れもない“凡戦”だ。日本の試合じゃなければとても見てられない。つまらなすぎて…)
前半40分すぎ。
スタジアムに異変が起こった。
さっきまでバラバラだった“ブブゼラ”の音が、急にひとつにまとまった。
「ブー、ブー、ブー、ブー」
爆音でスタジアムが揺れる。
「ブー、ブー、ブー、ブー」
爆音がさらに大きくなる。
気が付くと“鳥肌”がたっていた。
一種の感動が体中を駆け巡っていた。
「つまらない試合をしてるからスタジアムが怒ってる…」
目の前で起こっている“凡戦”に対し、スタジアムが今にも噴火しそうなくらい怒っているように感じられた。
「もっと攻めろ!」
「もっとリスクを犯せ!」
スタジアムがピッチ上の選手に怒鳴ってるようだ。
「ブー、ブー、ブー」
さらに大きくなるブブゼラ。
気が付くと前半が終わっていた。
ブブゼラの音は魂に響く。
あと3分もブブゼラが鳴り響いていたら、たぶん、涙を流していた。
それだけ魂を揺さぶられた。
「きっと、ブブゼラはスタジアムの叫びなんだ…」
雑音にしか聞こえなかったブブゼラが、心を揺さぶる楽器に変わった瞬間だった。

テレビでは“満員”っていってたらしいけど、スタジアムはガラガラ。ハーフタイム中、周りにいた日本人に声を掛けると全ての人が南アフリカ在住でした。どうやら、チケットが取れていても日本から来なかった人が大量にいるらしい…