フロントへ降りるとまだ警官がたくさんいた。あいかわらずお喋りしている。
「超いいかげんスね」
ひらっちが感想を述べる。
全くその通りだ!
南アフリカでは「政治家と警官はあてにするな!」という格言があるらしい。
現大統領のズマさんも副大統領時代に“婦女暴行罪”で逮捕されたことがある。そんな人が大統領になるのだから、政治家もあてになる訳がない。
やはり怖い国ではある。
さてさて、外で待つフクさんとナベちゃんと合流し、ファンフェスタ会場へ。
腹ペコのフクさんは我慢が限界なのか“とっとと”会場内へ入っていってしまった。
会場へ入るのにはセキュリティーチェックがある。国内向けのゲートと外国人向けのゲートがあり、我々はもちろん外国人向けのゲートへ。国内向けゲートはチェックが厳しく、外国人向けゲートはチェックがゆるい。※通常は逆のような気がするが、“さすが南アフリカ”というシーンのひとつ。
そんな“ゆるゆる”のゲートでモリモリが止められている。
「おいおいどうしたよ?」
慌てて声を掛けると“衝撃”の一言が返ってきた。
「このユニフォームくれって言ってんだよ!ずっと嫌だって言ってんだけどさあ、入れてくれないんだよ…」
恐るべし“南アフリカ”…
政治家や警官だけではなく、ガードマンまでもが“あてにならない”とは…(汗)
まあ、なんとか会場に入ることができ、先ほど通った露店が立ち並ぶ広場へ。
食に“そこまで”こだわりがないワカさんが場所取りをし、他の4人は思い思いの店へと食を求めて走る。
「お~い、ビールだけ先にちょうだい!」
これさえあれば、何時間でも待っていられる。
ひらっちとナベちゃんは“カレー”を、モリモリは“ハンバーガー(この人ハンバーガーが大好き)”を、そしてフクさんは、ズールー族の“トラディショナルフード”なるものを買ってきた。
みんなで思い思いのものを“ガッツク”。
カレーは2種類。定番のビーフとチキンだった。ダーバンにはインドからの移民が多いため、カレーが“美味い”ことは既に知っていた。が、この露店のカレーが“超”ウマい!!高級店で食べたカレーなんか全く目じゃない!あっという間になくなったので、ひらっちが再び買いに行くことに。今度は走っていった。
ハンバーガー好きのモリモリが「このハンバーガー“超”ウマいゼ!食ってみい!」と我々に言う。だいだいこういう所のハンバーガーが美味かったためしがない。だいたいバンズがパサパサなのがほとんどだ。それでも、と思い、言われるがまま食べてみると、これが“絶品”!!モッチリとしたバンズに新鮮レタス、そして肉汁たっぷりのバーガーと、非の打ち所のない出来栄え!!あまりのウマさに、これも追加!!
注目の“トラディショナルフード”は、まさにズールー族の伝統的を感じさせる一品。プラスティックの器に“ド~ン”と置かれたステーキ。その周りにはポテトサラダ風のイモの練りモノと、これはポテトサラダ風に豆を潰したモノが置かれていた。ステーキの大きさよりも、その周りの“ポテトサラダ風”のモノの量にビックリした。※イモと豆が主食なのか、日本で「ハンバーグプレート」を頼むと付いてくるライスのようなイメージ。
恐る恐るステーキをかじると、「フガフガフガフガ」。硬くて噛み切れない。ポテトサラダ風のモノは“味がない”。要するに美味くない。それでもフクさんは“ガツガツ”食べる。「これウマいね!」。もはや味覚も狂いだしている。「もう一皿食べよっと!」。みんなの制止を振り切り、フクさんはもう一皿買いに行った。
腹も十分満たされた頃(フクさんはまだトラディショナルフードと格闘していたが…)、現地の若者グループ(5、6人)が我々のテーブルへやってきた。“勝手に”空いている椅子に座ると、何やら話しかけてきた。何を言っているかわからないが今は大丈夫!英語を話せるナベちゃんが対応した。
どうやら「どっから来たのか?」聞いているようだ。※その位なら我々3人でもわかる!
「cuteは日本語でなんて言うんだ?」
また聞かれた。現地で声を掛けられると必ずこれを聞かれる。
「かわいい」
そう答えると、現地の若者たちが一斉に
「カワイイ!」
を大声で連呼し始めた。
あまりにもこの連呼が続くので、
「ミー?」
と言うと、
これまた一斉に
「ノー!イッツ、ユー!」
全員がひらっちを指差した。
ひらっちに忍び寄る“〇イズ”の影…
(ひらっちが危ない!)
しばらくこのネタで大笑いしていたのだが、本当にひらっちが連れて行かれそうだ…
「一緒に遊ぼう!」
と言われ、手を引っ張られている。
(ヤバイ!)
その瞬間、今まで言葉を発しず、トラディショナルフードを格闘していたフクさんが、
「オレたち帰るから、ほか行きな!」
的な言葉を発すると、彼らはゆっくりと立ち去っていった。
「マジ怖かったっス…」
ひらっちはまだ顔が引きつったままだ。
「行けば良かったのに。新しい自分と出会えたかもしれないのに」
モリモリが“ガハガハ”笑いながら茶化す。
すると次はさらに若い、高校生位の現地の男の子たちがやってきた。
「一緒に遊ばない?」
もちろんひらっちに声を掛ける。
ここ南アフリカでは、ひらっちは“モテモテ”だ。
(このままここに居たら、ひらっちが“その気”になるかもしれない…)
再びフクさんがお引取り願い、ひらっちが“その気”になる前に、その場を離れることにした。
パブリックビューイング会場へ向かう途中、現地の子供たち(小学生だから、ひらっちもひと安心)が広場でサッカーをしており、それに複数のオランダ人が混ざろうとしていた。
「おい、サッカーやってるゼ!行ってこいよ“サムライ”!」
モリモリとひらっちは週に1回はサッカーをやっている“現役”選手。ナベちゃんも普段からサッカーをやっているようだった。※ちなみにわたしはそのチームの監督。怖いくらい動けないからネ♪
現地の小学生を均等にわけ、そこに現地の大人が数人加わり、オランダ人と日本人は別々のチームになった。
“日本対オランダ”第二章の幕開けだ!
「絶対プレスは怠るなよ!」
監督から檄が飛ぶ。
そりゃそうだ!“本当の”日本のサッカーをオランダ人に見せつけるチャンスだ!
さんざん発破を掛けピッチ(コンクリートですが…)へ送り出す。
オランダ人はやはりデカい。ロングボールを中心に“シンプル”にゴールを目指す。ターゲットとなるデカい子にボールを集め、こぼれ球をアフリカンがドリブルで切れ込むのが主な攻撃スタイル。
一方の日本チーム(もちろん現地の人もいますが、ここはあえてこう呼ぶことにします)は、モリモリとひらっちのプレスをきっかけに攻守を入れ替える“リアクションサッカー”で対抗。
先制点は日本。運動量“バツグン”のモリモリの激しいプレスから右サイドに流れたひらっちへ。最終ラインから“放り込み”を多用していたオランダはサイドが手薄。そこをひらっちが軽やかに突破し、そのままシュート。一旦は相手キーパーが防ぐが、ナベちゃんがこれを押し込んでゴールが決まった。
その後も日本は、運動能力に優れたふたりを中心に試合を展開。次々にチャンスを演出する。
すると、それを見ていた南アフリカの大人たち(仕事中の人もいたが…)が続々と参加。なぜかオランダチームの方が人が多くなっていた。南アフリカの大人たちは凄い。何しろ全くパスを出さない。自陣ゴール前でボールを取ると、そのままドリブルを始める。
これは非常に興味深かった。
オランダ人=ロングボール
日本人=プレス
南アフリカ人=ドリブル(&仕事放棄…)
各国のカラーが鮮明に映し出されていた。
人でごちゃごちゃになり、誰が味方で誰が敵かわからなくなった所で日本人は退散したが、“サッカーの素晴しさ”が充分詰まったで出来事だった。
ホント、サッカーは素晴しい!
その後、パブリックビューイング会場へ行き試合観戦。
この日は日本人の姿はまばらで、逆に“黒人”の皆さんが非常に多かった。
「あれ?なんか昨日と雰囲気違いません?」
ひらっちがいち早く会場の雰囲気に気が付いた。
「大丈夫、大丈夫!」
モリモリは相変わらずだ。
ひらっちと一緒にトイレに行くと、その帰りに同じ“黒人”がずっと後ろを付いてくる。我々がスクリーンの見える場所にポジションをとると、その“黒人”は我々の目の前に“スッ”と立った。その風貌は黒のキャップを深くかぶり、ジーパン、そして黒の革ジャンで、両手を革ジャンのポケットに入れていた。
「この人、ヤバくない?」
ひらっちに話しかける。
「いや、マジでおかしいですよ!」
もはや試合どころではない!
会場ゲートの“いいかげん”なセキュリティーのことを思い出した…
しばらくすると、その黒人は我々の前から移動した。その姿を目で追うと、少し離れた所で別の黒人となにやら話をしている。その別の黒人が我々の方に目をやると、うなずき、こちらに向かって歩いてきた。その黒人は我々の“すぐ”後ろで足を止めた。
(もうだめだ!!)
昨晩同様、「寒い、眠い、腹痛い」をふたりで連呼し、この日もホテルに帰ることにした。
「アレはマジでヤバいって!」
ふたりでモリモリに事情を説明しながらホテルのロビーへ。
まだ警官がおしゃべりしていた。
一体どういう国なんだ…
明日は、丸一日フリー。
無治安の街で無事過ごせるだろうか…

とにかく警官の数は多いのだが…